2009年2月14日土曜日

不法滞在の恩赦制度

カルデロン・のり子さん家族の件で、不法滞在の恩赦制度がにわかに注目浴びている。

移民の歴史が長いフランスや米国では一九八〇年代から、一定の条件を満たした不法滞在者に特別在留許可を与える「アムネスティ」という恩赦的制度がある。条件は時々で変わるが(1)滞在十年以上(2)重罪を犯していない-などだという。

 この制度に詳しい田中宏龍谷大教授は「不法滞在者が長期間、身分を偽るなどして生活することは、病気や事故の時などに深刻な事態を引きおこす原因となる」と指摘。その上で「日本の労働現場で懸命に働く外国人は多い。問題を起こさず社会に定着している人に安定した生活を保障することは、日本の社会にとっても利益となる」と強調する。

 一方で、「特別在留許可は不法滞在の追認にあたる」などとする批判も根強い。米国では二〇〇六年にアムネスティ制度に反対して一千万人規模のデモが起きた。国内でも不法滞在者への許可に反対する市民団体が存在している。難民の人権保護活動などに取り組む土井香苗弁護士は「出入国管理は大事だが、子どもの権利は入管の規制のさらに上にあるもの。何が子どもにとって最善なのかを重視して考えてほしい」と話している。
東京新聞 2009年2月13日 夕刊

魚拓


 記事にあるように、海外でもかなり論争があるようだ。
 ただ、2006年のデモに関しては、調べてみると、誤解を与えるのではないか、と思う。
2006 United States immigration reform protests(wiki)
In 2006, millions of people, with 500,000 in Los Angeles alone participated in protests over a proposed reform to U.S. immigration policy. The protests began in response to proposed legislation known as H.R. 4437, which would raise penalties for illegal immigration and classify unauthorized immigrants and anyone who helped them enter or remain in the US as felons. As part of the wider immigration debate, most of the protests not only sought an overhaul of this bill, but also a path to legalization for those who had entered the US illegally and fewer Immigration Services delays.

たしかに数百万規模のデモはあったが、むしろ、不法移民やその共謀に対する罰則の強化に関する立法に反対するデモである。あるいは、これ以外の1000万規模の恩赦制度に反対するデモがあったのか?

 もっとも、不法滞在者の許可に反対する人々がいるのは事実である。

ググると、


"'No Amnesty' Is Cry at D.C. Immigration Protest
By Pamela Constable
Washington Post Staff Writer
Monday, April 23, 2007; Page B0
魚拓

あるいは、illegalaliens.us

Wake up America Amnesty for Illegal Immigrants


イギリスでも論争がある。
Johnson 'naive' over illegal immigrants amnesty



Published Date: 23 November 2008
By Daniel Bentley
魚拓
 この記事では右派のロンドン市長が税収の増加につながるとして、恩赦賛成派、保守政党は不法入国を増長させ、そうした人々の搾取にもつながるとして、反対している。

 で、その賛否をまとめた記事もある。Reviewing the Amnesty Debate

By Joseph Chamie | Thursday, December 18, 2008

魚拓

賛成派は、恩赦を与えることで、

 不法移民の地位を利用した搾取・虐めから移民を解放し、犯罪に巻き込まれた場合、目撃した場合など通報をしやすくして被害者の擁護、犯罪の減少につながるし、 退去させたり、取り締まったりする費用は莫大であり、また、 経済的によりよい生活をしたい人の権利、 家族と暮らす権利にも配慮すべきだし、貧困・紛争地に戻すのは可哀想だといい、全体としては、 社会の活性化・公共の安全にもつながる、という。



反対派は、恩赦を与えることで、
 不法移民の移入・潜伏を奨励することになり、さらなる不法移民が増大する、また、合法化された移民たちにかかる健康保険・教育などの社会福祉負担もかさばるし、行政の手続きの費用も馬鹿にならないし、不法移民が安い賃金で働くことで、同業従業員の賃金も低廉化する。手続きを悪用した行政の腐敗や、違法を合法とすることで、合法に入国・居住しているものとの不均衡、法や秩序に対する信頼も損ねる。また、人口が増加することで環境は悪化し、公共の安全、福祉制度などの秩序が乱れる、

という。


 それぞれ賛否両論あり、どちらもそれなりに一理ある。やはり、現実的な妥協が必要であろう。


因みに、USATodayの記事では、

Over time, illegal immigrants would have to pay fines and fees of more than $9,000 (plus thousands more for each family member). They'd have to prove they're working and have no significant criminal record. They'd have to learn English and American civics. And, if they want legal permanent residence, they'd have to return to their home country to apply for it there. Getting a green card would take at least eight years, citizenship at least 13
USAToday June 08, 2007
として、科料、勤務態度、犯罪履歴、言語能力などの要件を満足してようやく、市民権が得られる道を与えるのだから、それも可ではないか、としている。


アメリカで提案されている要件と一致する必要はないが、不法移民の取り締まりを完全に実施することが出来ないし、社会的に長期に安定して生活している者を退去させる必要性が乏しく、他の手段・方法で、当該個人へのペナルティ、及び、不法移民の増加の危険なども防げる以上、


原則は、

不法移民を雇用する企業、および不法移民の取り締まりをして、企業への罰則、および、不法移民を退去処分とする、

例外として、


長期に及ぶ社会的事実を尊重して、例えばの話だが、犯罪歴がない、真面目な勤務履歴 罰金の科料、などを要件に、合法移民として法的地位を承認する、


 というのも可ではないか、というのがいまの自分の意見である。

 日本でもこれから議論が活発化していくのではないか、と思う。